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札幌高等裁判所 昭和42年(ネ)204号 判決 1969年8月13日

控訴人 中村泰登

被控訴人 小崎清七郎

主文

本件控訴を棄却する。

控訴人の当審における予備的請求を棄却する。

当審における訴訟費用はすべて控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。札幌地方裁判所室蘭支部昭和四一年(手ワ)第一一三号事件の手形判決を認可する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求め、予備的に、「被控訴人は控訴人に対し、金四〇〇万円およびこれに対する昭和四二年一一月七日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

被控訴代理人は、主文第一、二項同旨の判決を求めた。

第一控訴人の本位的請求(約束手形金請求)

一  控訴人の本位的請求(約束手形金請求)についての当事者双方の事実上の主張は、次のとおり訂正付加するほか、原判決の事実摘示(原判決の引用する手形判決中の事実摘示を含む。)と同一であるから、これをここに引用する。

二  原判決の引用する手形判決(札幌地方裁判所室蘭支部昭和四一年(手ワ)第一一三号事件)の事実摘示中、一枚目裏一三行目に「商事法定利率年六分の割合による遅延損害金」とあるのを「手形法所定年六分の割合による利息」と訂正し、原判決の事実摘示中、二枚目裏三行目の「山本」とあるのを「山本久吉」と訂正する。

三  控訴代理人は次のとおり述べた。

(一)  被控訴人の白地補充権時効消滅の抗弁に対し、

1 仮りに本件約束手形が満期白地のまま振出され、被控訴人主張のごとく補充されたとしても、本件約束手形振出の原因となつた後記準消費貸借契約上の債務については、弁済期が昭和三七年二月一〇日と定められていたのであるから、本件手形の白地補充権の時効も右弁済期日の翌日から進行を開始するものと解すべきであり、従つて、仮りに満期欄の補充が被控訴人主張の日になされたとしても、当時その補充権は未だ時効により消滅しておらず、右補充はもとより有効である。

2 仮りに本件約束手形が満期白地のまま振出され、その補充権が時効により消滅した後に本件約束手形の満期日が被控訴人主張のごとく補充されたものであるとしても、控訴人はそのことを知らず、満期日について補充完成された手形を裏書譲渡により取得したものであるから、かかる場合には、手形法七七条二項の準用する同法一〇条所定の所持人保護の規定が類推適用されるべきである。

(二)  被控訴人の「見せ手形」の抗弁に対し、

本件約束手形は、後記のとおり、被控訴人が訴外丸虎山本組に対して負担するに至つた準消費貸借契約上の債務に基づいて振り出されたものであつて、いわゆる「見せ手形」ではない。

四、被控訴代理人は次のとおり述べた。

(一)  補充権の時効の起算日について、

被控訴人と訴外丸虎山本組との間に、控訴人主張の加き準消費貸借契約が成立したとの主張は否認し、本件手形補充権の時効の起算日が昭和三七年二月一一日であるとの主張は争う。

(二)  手形法一〇条の類推適用について、

仮りに本件につき手形法一〇条の類推適用ありとしても、控訴人は本件約束手形を悪意又は少くとも重大な過失によつて取得したものであるから、同法条但書により被控訴人は白地補充権の時効消滅を控訴人に対抗できるというべきである。すなわち、

1 本件手形の振出日は昭和三四年二月一一日であるところ、満期は右振出日から起算して約七年一〇月後の昭和四一年一二月五日と記載されているのであり、このように長期の満期を定めた手形は通常あり得ないことであり、手形の外観上この異常性は瞭然たるものがある。従つて、何人も右の如き手形を取得するに当つては、これに不審をいだき、振出人に照会するのが通常の措置と考えられるのに、控訴人は振出日から六年余も経過した昭和四〇年八月二〇日右手形を訴外丸虎山本組から取得するに当つて、振出人である被控訴人に対し何ら照会もしていない。

2 控訴人は、右手形取得当時、訴外丸虎山本組に対して債権を有し、その支払の方法として本件手形の裏書譲渡を受けたというが、本訴第一審の判決により本件手形の補充権が時効により消滅したと判示された後においても、充分資力のある右丸虎山本組から直接自己の債権の取立てをしようとせず、敢えて本件が第二審に係属した後である昭和四二年八月二二日、改めて右丸虎山本組から被控訴人に対して有すると主張する後記被控訴人主張の準消費貸借契約に基づく金四〇〇万円の貸金債権の譲渡を受けたとして、あくまでも被控訴人から、金四〇〇万円を取り立てようとしている。

3 本来、訴外丸虎山本組は被控訴人に対して何ら控訴人主張の如き債権を有せず、従つて本件の如き手形上の権利も存在しないのであつて、このことと右記載の控訴人の態度とを照応すると、訴外丸虎山本組としては被控訴人に対する本件約束手形に基づく権利行使を為し得ないため、控訴人と通謀し、右丸虎山本組の債権取立ての方法として本件手形を控訴人に裏書譲渡し、控訴人も右趣旨で右手形を取得した(控訴人は右丸虎山本組の従業員として勤務している。)ものであることが窺えるのであり、仮りに、万一、控訴人の悪意が認められないとしても、前記1で指摘したとおり控訴人は本件手形を取得するにつき重大な過失がある、といわなければならない。

第二当審における控訴人の予備的請求

一  控訴人の本位的請求(約束手形金請求)が認められない場合に備え、控訴代理人は、予備的請求として、当審において次のとおり請求を付加した。

(一)  訴外株式会社丸虎山本組は、昭和三三年、白老郡白老町から同町立白老小学校建築工事など諸工事を代金合計金二三三八万五九〇〇円で請け負い、これを被控訴人に対し代金合計金二〇八五万円で下請負いさせた。ところが右丸虎山本組は右白老小学校の建築工事の完成引渡しまでの間に、被控訴人に対し、工事前渡金および資材代金等として右下請負代金額を超える合計金三一五九万四七四七円を支払つた。他方、丸虎山本組は、被控訴人に対し右請負工事契約外の融通手形関係で金二八五万円の債務を負つており、更に昭和三三年五月三一日被控訴人から現金九万円を受領しているので、この合計金二九四万円を差し引くと、右丸虎山本組が被控訴人に支払いをした金額は合計金二八六五万四七四七円となつていた。前記のとおり、丸虎山本組が被控訴人に支払うべき下請負代金は金二〇八五万円であつたから、この金額を右現実に支払われた金額二八六五万四七四七円から差し引いた残金七八〇万四七四七円が超過支払分となつていたわけである。

(二)  そこで、訴外丸虎山本組代表取締役山本平雄と被控訴人は、昭和三四年二月一〇日、右丸虎山本組の被控訴人に対する超過支払分のうち、被控訴人が丸虎山本組に返済すべき精算金額を金四〇〇万円と確定し(和解契約)、右金額の返済義務を消費貸借の目的として、同日右両者間に、利息の定めなく、弁済期を昭和三七年二月一〇日とする準消費貸借契約を締結した(本件約束手形は、被控訴人において右債務の支払いのために同日振り出したものである。)。

(三)  丸虎山本組は、被控訴人に対する右準消費貸借上の債権を昭和四二年八月二二日控訴人に譲渡し、同日発信の内容証明郵便をもつてその旨被控訴人に通知し、その翌日ごろ右通知は被控訴人に到達した。

(四)  よつて、控訴人は右譲受債権に基づき被控訴人に対し、金四〇〇万円とこれに対するこの請求を記載した控訴人準備書面(昭和四二年一一月六日付)が被控訴人に送達された日の翌日である昭和四二年一一月七日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被控訴代理人は答弁および抗弁として次のとおり述べた。

(一)  控訴人主張の予備的請求原因(一)および(二)記載の事実は否認する。同(三)記載の事実中、控訴人主張の債権譲渡通知がその主張のころ被控訴人に到達したことは認めるが、債権譲渡の事実は不知。同(四)記載の控訴人準備書面の送達の日の翌日が昭和四二年一一月七日であることは争わない。

(二)  仮定的抗弁として、次のとおり消滅時効を援用する。

1 仮りに、訴外丸虎山本組が被控訴人に対し控訴人主張の如き工事前渡金、資材代金等の過払いによる精算金債権を有していたとしても、これは右両者間の工事請負契約上生じた債権であり、右債権には弁済期の定めがないから、右債権は遅くとも本件約束手形振出しの日たる昭和三四年二月一一日から起算し満五年(商法五二二条)の経過により時効完成し、消滅した。

2 また、仮りに、右債権が控訴人主張の如く準消費貸借に改められたとしても、その契約成立の日は控訴人の主張によれば昭和三四年二月一〇日であり、弁済期の定めはなかつたから、右成立の日から満五年(商法五二二条)の経過により右債権も時効完成し、消滅した。

三  控訴代理人は右消滅時効完成の仮定抗弁を争い、更に、再抗弁として、次のとおり事実関係を主張し、本件準消費貸借契約上の債権の消滅時効は、被控訴人の右債務承認により中断されたと述べた。すなわち、

(1)  被控訴人は昭和三四年二月一〇日以降、毎年三回ぐらいは訴外丸虎山本組事務所を訪れ、その都度代表者山本平雄に対し、「いい仕事はないか。そうすれば約束の金(本件金四〇〇万円)の支払いができるのだが。」といつて、本件債務を承認した。

(2)  特に昭和三七年九月ごろ、被控訴人は苫小牧市内のレストラン「第一洋食」において右会社代表者に対し、「実は白老で建材店を開きたいのだが、あなたは役所関係にも顔が広いので、ぜひ品物を使つて貰いたい。そうすれば早く借金の返済ができるから。」と話をした。

(3)  その後昭和三八年中および同三九年中にも、毎年二回ないし三回ずつ被控訴人は、右会社代表者との間で仕事のこと等につき話し合つた際、本件金四〇〇万円の債務も早急に返済しなければならないと申し出て、その都度本件債務を承認した。

第三証拠関係<省略>

理由

第一控訴人の本位的請求(約束手形金請求)について

一  被控訴人が昭和三四年二月一一日訴外株式会社丸虎山本組に対し、額面金四〇〇万円、支払地・振出地ともに厚真村、支払場所苫小牧信用金庫厚真支店、振出日前同日、受取人前同丸虎山本組なる約束手形一通を振出交付したことは、当事者間に争いがなく、振出部分の成立につき当事者間に争いがなく、その余の部分の成立については原審証人山本平雄の証言によつてこれを認めうる甲第一号証、および右証言ならびに当審における控訴本人尋問の結果によれば、右手形は満期欄白地のまま振り出され、訴外丸虎山本組代表取締役山本平雄において昭和四〇年八月二〇日頃右欄に支払期日を昭和四一年一二月五日と補充してこれを控訴人に裏書譲渡し、控訴人において右手形を支払期日に支払場所に呈示したが、支払いを拒絶され、現にこれを所持しているものであることが認められ、以上の認定に反する証拠はない。

二  被控訴人の時効の抗弁について判断する。

(一)  ところで白地手形の補充権は、商法五二二条の準用によつて、これを行使しうるときから五年の経過により消滅時効にかかり、消滅するものと解すべき(最判二小昭和三六年一一月二四日民集一五巻一〇号二五三六頁参照)ところ、右認定のとおり本件手形は満期欄白地のまま昭和三四年二月一一日振り出されたものであるから、右振出日から満五年を経過した昭和三九年二月一一日の満了をもつて、その補充権は時効により消滅したと認められる。控訴人は、本件手形振出しの原因関係となつた準消費貸借上の債務の弁済期が昭和三七年二月一〇日であるから、本件手形の満期欄補充権の時効も右弁済期日の翌日から進行すべきものであると主張するが、仮りに右債務の弁済期が右主張どおりの日と定められていたとしても、このことは本件手形において補充さるべき満期欄に右債務の弁済期日と符合する支払期日(あるいはそれ以後の支払期日)を記載すべきことを意味するにとどまると解すべく、その補充自体は右手形の振出交付の後直ちになしうるところであつて、控訴人の主張はそれ自体理由がなく、他に時効の起算日を異別に解すべき根拠もない。

しからば、訴外丸虎山本組代表者山本平雄のなした前記満期欄の補充は、補充権消滅後になした不当補充であり、本来その効力無きものといわざるを得ない。

(二)  しかしながら、本件控訴人が右不当補充の事実を知つて本件手形を取得したと認むべき証拠はなく、右の如く補充権の時効消滅後に白地の補充記載のなされた約束手形であつても、所持人が右不当補充の事実を知らずに右手形を取得した者である場合には、手形法七七条二項の準用する同法一〇条の規定が類推適用されるべきものと解するのが相当である。けだし、一旦白地が補充され完成手形の外観を呈するに至つた場合は、右補充が補充権の消滅時効完成前になされたものであるか否かは外形上明らかではなく(本件の場合も、支払期日の補充が、補充権の消滅時効の完成する昭和三九年二月一一日以前になされたか否かは、外形上明らかとはいえない。)、他方手形法一〇条は、白地手形が完成手形と並んで流通する取引の実情に照らし、白地手形の信用を高め、流通を保護するため、その善意取得者を保護せんとする趣意のもとに設けられたものであるから、単に「予め為された合意と異る」補充がなされた場合のみならず、「補充権が消滅した後に」補充がなされた場合にも不当補充の手形取得者がその不当補充につき善意である限り、右法意に徴し、同法条を類推適用し、右手形取得者を保護するのが妥当と解せられるからである。

(三)  そこで、進んで、被控訴人主張の、手形法一〇条但書に基づく所持人たる控訴人の悪意又は重大なる過失の有無について判断する。

当審における控訴本人尋問の結果により成立の認められる甲第八、第九号証、原審における証人山本平雄の証言および右控訴本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人は昭和三九年頃「道央重機株式会社」なる未登記の会社名義をもつて土木請負・重機賃貸業を営んでおり、同年一二月から翌年四月頃までの間、訴外丸虎山本組から、同山本組が白老郡白老町から請け負つた宅地造成・道路配土工事を下請負いし、あるいは重機を同山本組に賃貸して合計約金二六〇万円の債権を右丸虎山本組に対して取得するに至つたこと、「道央重機」は同年六月頃倒産状態となつており、他方丸虎山本組は当時資金繰は裕福ではなかつたが支払うべきものは支払える状況にあり、かつ、右白老町から請負つた工事代金をすでに白老町から受領していたと推測されるのに、控訴人は、同年八月頃丸虎山本組から右金二六〇万円の債権回収に当り、現金にてその支払いを受けることもなく、丸虎山本組代表者山本平雄から「こういう手形があるから、これを廻してあげる。」と本件手形の受領方を求められ、同人から後記のとおり裏書譲渡を受けるまでの間本件手形を現認もせず(もしこれを現認していれば満期欄が白地のままであること、従つて振出日からすでに満五年を経過していることを看取できたはずである。)、振出人たる被控訴人の現況につき知人から「小崎さんは何か当別町の川村さんの下請で、かなりやつている、との噂である。」と聞いたのみで、格別調査もせず、本人に問い合せることもなく、また、振出しの事情や長期未決済の理由等につき何ら山本組から説明を受けることもせず、単に「万一回収不能のときには山本組が責任を持つ。」との山本組専務取締役の言葉に従い、額面金四〇〇万円の約束手形を前記償権額約金二六〇万円相当のものと値ぶみして、同年八月二〇日その裏書譲渡を受けたこと、その後同年一〇月控訴人は右丸虎山本組に事務員として入社して経理事務を担当し、翌四一年一〇月からは同山本組の総務部長となり資金対策を主管し、本件約束手形が不渡りとなり、更に原審で控訴人の手形金請求が棄却された後も、強いて山本組に対し、前記債権約金二六〇万円の決済を求めることもせず、山本組から「ひとつ、裁判でやつてくれないか。」といわれるまま、本件手形振出しの原因債権と称する右丸虎山本組の被控訴人に対する準消費貸借上の債権までも右山本組から譲り受けて被控訴人に訴求していること、の各事実が認められ、この限りで右認定に反する証拠はない。

ところで、本件約束手形のごとく振出日から支払期日までに約七年一〇月もの期間の存する手形は、通常の手形取引においては見られない異常なものであり、かかる長期の手形を取得するに当つては、振出人の資金繰りの苦しさ乃至信用の低さを一応懸念してみるのが取引界の常態と思われる(かかる懸念を回避するため殊更に振出日の記載を避け、振出日白地のまま振り出される場合のあることは、当裁判所にも顕著な事実である。)。しかるに控訴人は右認定のごとく、本件約束手形の取得に当り、かかる長期手形振出しの事情や、長期未決済の理由、或いは被控訴人の資力信用等について右認定のほか何ら実質的な調査を行つた形跡もない。特に本件の場合、手形振出しの時点からすでに六年半も経過した後のことであり、控訴人としては、丸虎山本組から右手形振出の事情や長期未決済の理由、山本組で敢えて直接被控訴人から取立てをしない事情等につき容易に説明を求めることができたはずであり、かつ、仮りにこのようにしていれば、裏書交付を受ける前、即ち満期欄の補充前に、本件約束手形を見ることもでき、少くとも後掲甲第二号証(本件手形とほぼ同時に被控訴人から丸虎山本組に差し入れられた原因債務の確認書)の提示を受けることができたであろうことは、充分考えられるところであつて、そうすれば、補充権の消滅時効に気付き、或いは少くとも原因債権の消滅時効に懸念を持つに至つたであろうと思われる。本件の如き長期にわたる手形をその振出後数年を経て取得する者としては、右のごとき懸念を持つて自ら手形の安全と信用につき確認すべきであつて、また少くとも本件においてはこれを容易になしうる状況に在つたのにも拘らず、控訴人は何ら右のごとき所為に出ることもなく(金四〇〇万円の手形を金二六〇万円の値打ちと評価して取得したところからみると、手形の信用につき若干の懸念を持つていたとも推察できよう。)、軽度の注意を怠り、安易に、本件手形を裏書取得したものと認むべく、控訴人には右取得につき、少くとも重大な過失があつたと評さざるを得ない。

よつて控訴人に少くとも重大な過失ありとする被控訴人の主張は理由があり、被控訴人は、本件手形の満期欄の補充権の消滅後になされた無効のものであること、従つて本件手形上の権利が不発生に終つていること、を控訴人に対抗できるものであるから、その余の点につき判断するまでもなく、控訴人の本件約束手形に基づく本位的請求は理由がなく、棄却を免かれない。

第二控訴人の予備的請求について

当審証人山本平雄の証言により成立の認められる甲第五号証の一ないし三、同第六号証の一ないし四、当審証人能藤松五郎の証言により成立の認められる同第七号証の一、原審および当審証人山本平雄、当審証人木村兼敏、同能藤松五郎の各証言(ただし、いずれも後記措信しない部分を除く。)、ならびに当審における被控訴本人尋問の結果(第一、二回。ただし、後記措信しない部分を除く。)によれば、昭和三三年当時、訴外株式会社丸虎山本組と被控訴人(小崎組と称していた。)は、相提携して建築工事の請負いを業としており、丸虎山本組が他から請け負つた工事について、その請負代金額から一割余のマージンを控除したその余の代金額で被控訴人に右工事を請け負わせ、山本組は資金と資材を調達し、これを被控訴人に供給する合意のもとに、被控訴人をして請負工事の完遂に当らせていた(ただし、両者ともそれぞれ別個の事業にも当つていた。)こと、右山本組は右同年白老郡白老町から町立白老小学校々舎増新築工事等を請負い、そのうち請負代金額にして金二三三八万五九〇〇円相当の工事を、下請負代金二〇八五万円で被控訴人の小崎組に担当施工させたこと、同年一二月末その全工事を完成した段階での計算によると、丸虎山本組の張簿上、山本組が被控訴人のため支弁した金員は、被控訴人名義の前渡金勘定で金一三八三万六五一九円、同貸付金勘定で金三一万円、同仮払金勘定で金五七万円(そのうち金五〇万円は訴外日建土木建材株式会社振出しの額面金五〇万円の手形で事実上返済されているが、これは前渡金勘定一〇月一六日欄に入金記帳されている。)、合計金一四七一万六五一九円となつているほか、甲第七号証の一の無名義の支払手形勘定には、前記各勘定に移記された各支払いのほか、甲第六号証の四の記載と対比すると、被控訴人のため振り出されたとされる合計五二通の手形(額面合計一三八五万五七三五円相当)が「仮払」名下に記載されていること、の各事実が認められる。

しかしながら、右「仮払」名下の五二通の手形については、被控訴人名義の前記仮払金勘定、その他同人名義の他の勘定にも移記されておらず、右手形による支払い欄に付記された谷内金物店、加藤建材店等各支払い先名義の仮払金勘定も存在しないばかりか、前記証人能藤松五郎、当審証人吉内三之助の各証言および当審における被控訴本人尋問の結果(第二回)によれば、丸虎山本組は昭和三三年中資金繰作に苦慮し、訴外谷内金物店との間で融通手形を交換し、あるいは同加藤建材店から山本組振出しの手形を割り引いて貰い現金を調達し、山本組の資金繰りに供したこと等のある事実が認められ、前記甲第七号証の一のうちの支払手形勘定の記載からも、谷内金物店に振り出された前記「仮払」名下の手形のうち一二月三一日までに支払期日の到来する手形一六通のうち七通(金二五〇万円相当)については決済の記帳があるが、残り九通(金二一五万円相当)については決済の記帳がなく、また同じく加藤建材店に振り出された七月一五日付の手形四通(金二〇〇万円相当)、谷島電機店に振り出された九月二六日付の手形三通(金五〇万円相当)なども決済の記帳を欠いている事実が看取され、前記山本組の資金操作の事実に鑑みると、右「仮払」名下の手形中にも右山本組の資金繰作のための融通手形が混在するとの疑いを払拭し得ず、他方、被控訴人名義の前渡金勘定中には、九月二八日付額面金三五万円の手形に「融手分」なる記載のあるところからみると、被控訴人の資金融通のため振り出された手形であれば、かくの如く記帳されて然るべきものであることも窺われるのであつて、如上の諸点を勘案すると、被控訴人名義の勘定に移記されていない前示「仮払」名下の各手形振出しの記載をもつて、すべて被控訴人のために丸虎山本組において振り出し支出したものと認めることは到底困難であり(前記甲第五号証の一ないし三によれば、丸虎山本組は昭和三三年中、被控訴人に請け負わせた以外になお金一〇〇〇万円を越す工事を受注完成し、被控訴人のほかに四名の下請負人のいたことも認められるから、前示「仮払」名下の各手形振出しが仮りにすべて真実支払手形であつたとしても、特に被控訴人のための振出しと付記されていないものについては、果してこれが被控訴人のための振出しであるのか否かも確証されない。)、前示五二通の手形のうち、如何なるものが、如何なる限度で被控訴人のための振出し支出となるのか確定するに由ないものである。

もつとも、前記甲第一号証および成立に争いのない同第二号証、原審および当審証人山本平雄、当審証人木村兼敏、同能藤松五郎の各証言によれば、被控訴人は昭和三四年二月一〇日訴外丸虎山本組代表者山本平雄の要請に応じ、同人に宛て、「一、金四百万円但し約手一葉。右金額は諸工事下請負施行に際し、之れが工事の完成受渡し終了迄に要せる工事前受金並に各種資材代金等の支払分を借用せる事に相違ありません。仍而之れが弁済の責に任ずる為め茲に確認書壱札差入致し置きます。」と記載した確認書(甲第二号証)を差し入れ、翌一一日には本件の約束手形一通(甲第一号証)を山本組に宛て振り出し交付していること、およびその頃被控訴人所有のコンプレッサー、ミキサー、ウインチ、自動鉋、モーター、足場丸太など工事用機材(少くとも金六〇万円相当)を丸虎山本組に委付して山本組の処分に委ねたことのあることが認められ、外形上被控訴人が控訴人主張の過払分の存在を認め、内金四〇〇万円の返済を約束したものと察せられないではないが、他方、当審における被控訴本人尋問の結果(第一、二回)に前記証人能藤松五郎の証言を加味して勘案すると、当時被控訴人は丸虎山本組との間で下請負工事関係の精算を済ませていたわけではないが、前記白老小学校関係の工事では当初から見積り誤算のため金一三〇万円程度の赤字の出ることは予想しており、更に昭和三三年一二月には前記谷内金物店が倒産して取付け騒ぎなどもあつて、山本組がかなりの打撃を蒙つている状態にあつたので、被控訴人として今後も丸虎山本組と連携していきたい希望もあつて、山本組の負担を若干でも和げるため自らその所有にかかる前記機材等を山本組に委付し、更に山本組代表者山本平雄の要請に従い、同人においてその義父で同山本組の会長の地位にある山本久吉から資金の援助を受ける便宜のため、現実には債務を負担するものではないとの了解のもとに、前記の如き金四〇〇万円の債務確認書ならびに同額の本件約束手形を作成しこれを丸虎山本組に差し入れたものであるとも考えられ、訴外丸虎山本組代表者山本平雄において爾来長期にわたつて右債務の履行を求めず(同人が再三履行を求め、被控訴人がその都度債務を承認したとの当審証人山本平雄の証言は採用の限りでない。)、また自ら取り立てずに右債権および手形を控訴人に譲渡していること(このことは控訴人の主張自体からも明らかである。)等を勘案すると、右被控訴人の弁疎があながち虚構のものとは考えられないのであつて、以上の証拠を彼此衡量するならば、控訴人の主張する過払金の存在ならびに右の内金四〇〇万円について被控訴人が真実その返済を約し、これを目的とする本件準消費貸借契約が成立したとの控訴人主張事実は、これを認めるに至らない、といわざるを得ない。

以上認定説示して来たところと牴触する原審および当審証人山本平雄、当審証人木村兼敏、同能藤松五郎、同佐藤昭典、同唐牛由正、同吉内三之助の各供述部分および当審における被控訴本人尋問の結果は措置できず、その他に以上の認定に反し、控訴人主張の準消費貸借の成立を認めさせるに足る証拠はない。

よつて、控訴人の右準消費貸借上の債権に基づく本件予備的請求も、その余の点につき判断するまでもなく失当であり、棄却を免かれない。

第三結論

以上のとおりであるから、控訴人の本位的請求を棄却した原判決は結論において正当としてこれを維持すべく、本件控訴はこれを棄却すべきものであり、また、控訴人の当審における予備的請求は失当であるから、これを棄却することとし、当審における訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。

(裁判官 原田一隆 神田鉱三 三宅弘人)

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